不動産売却の建物状況調査を含めた専門検査:安心して高く売るためのステップ
目次
不動産売却前の建物状況調査を含めた専門検査を実施することで、売却希望価格に近い金額での売却を目指せます。
専門検査によって、築年数が経った中古住宅でも購入希望者に安心感を与えられるためです。
本記事では不動産売却の建物状況調査を含めた専門検査の概要や必要性、種類と費用相場を解説します。
専門検査とは
専門検査とは、建物の状態や品質を調査し、評価するための検査です。
専門検査の内容は建物状況調査や耐震基準適合調査で、専門的な技術を用いて検査が実施されます。
専門家によるチェックによって認められた検査済みの物件は、品質が保証されることとなり、売値にも大きく影響します。
専門検査の必要性
専門検査がなぜ物件売却前に必要なのか、その理由は購入希望者が安心して物件を買えるようにするためです。
物件の購入希望者は対象物件の品質や耐震基準、経年劣化の状態などがわからないうちは、購入に踏み切れません。
専門家によるチェック済みであるという検査証があれば、購入希望者側に安心感を与えられるでしょう。
品質の確認
専門検査によって物件の品質を確認できます。
仮に大きな瑕疵があったり、品質に問題があればリフォームや補修工事などを実施し、それから売りに出す必要があります。
価格設定の根拠
専門検査によって物件の状態を把握することで、適正な売却価格を設定できます。物件の価値は状態や立地条件、設備などによって決まるためです。
仮に物件価格の値下げ交渉が入った場合でも、検査結果をもとに正当な根拠を持って交渉可能です。
耐震基準や建物の品質に問題ないことが証明できれば、売却希望額に近い金額での成約が期待できます。
トラブルの予防
売却を検討している物件に大きな瑕疵がある場合は、そもそも売りに出せません。
物件の瑕疵とは…物件に本来備わっているべき品質や機能が欠けていることを意味します。具体的には物件の損傷や設備の故障などです。
売り手が瑕疵を把握しておらず、購入後に購入者が瑕疵を認めた場合は、その責任を売り手が負うと民法で定められています。(民法第562条: | e-Gov法令検索をもとに作成)
万が一引き渡し後に物件の基礎に重大な瑕疵があることを購入者が発見し、補修工事が必要となった場合などは、工事費用などを購入者から請求されるかもしれません。
品質の確認を怠ると上記のようなトラブルに巻き込まれるケースがあるため、事前に必ず専門検査を実施しましょう。
修繕計画
専門検査を売却前に実施することで、必要な修繕箇所を確認できます。売却までに修繕を実施すれば、購入希望者側にとってネックとなる箇所を改善できるため、より売り手の希望額で売却できる可能性が高まるでしょう。
建物状況調査の説明の義務化
2018年4月より、建物状況調査の説明が義務化されました。
2018年3月31日以前は建物状況調査の説明は義務化されておらず、購入希望者側は物件品質について、不安を抱えているケースが多い点が懸念されていました。
これを払拭するために宅建業法が改正され、所有者は物件の賃貸開始または売却時に不動産会社より建物状況調査の有無を確認されます。
<注意>あくまで『説明の義務化』であり、実施の義務化ではありません。
実施していなくても物件売却は可能ですが、購入希望者側としては品質がある程度保証される建物状況調査結果がある物件を選ぶ可能性が高いです。
売却をスムーズに進めるためにも、今後物件売却を考えている方は建物状況調査を実施しておくことをおすすめします。
不動産売却時の専門検査の種類と費用
不動産売却時の専門検査には、さまざまな種類があります。ここからは代表的な専門検査について紹介します。
建物状況調査
建物状況調査とは、既存住宅状況調査技術者の資格を有しているものによっておこなわれる、建物の基本構造などの検査です。
国土交通省によると、建物状況調査は以下のように定義されています。
国土交通省の定める講習を修了した建築士が、建物の基礎、外壁など建物の構造耐力上主要な部分及び雨水の浸入を防止する部分に生じているひび割れ、雨漏り等の劣化・不具合の状況を把握するための調査です。
出典:宅地建物取引業法の改正について(国土交通省)
出典:建物状況調査(インスペクション)を活用しませんか?(国土交通省)
国土交通省のリーフレットによると、上図のように木造戸建て住宅と鉄筋コンクリート造共同住宅によって、調査箇所が若干異なります。
調査の内容は概ね以下のとおりです。
構造上主要な部分に係るもの | |
---|---|
調査対象箇所 | 調査する内容 |
バルコニー | 劣化の有無 ひび割れの確認 |
外壁 | ひび割れや欠損、タイルの剥がれの有無 サッシや周囲の隙間・開閉不良の有無 |
柱や梁 | 劣化や傾斜の有無 |
土台 | 土台の木枠のひび割れや傾斜の有無 |
基礎 | 基礎のひび割れや欠損の有無 |
床や壁 | 傾斜の有無 |
雨水の浸入を防止する部分に係るもの | |
---|---|
調査対象箇所 | 調査する内容 |
屋根 | 劣化状況や雨漏りの跡の目視 |
小屋裏 | ひび割れ・劣化・剥がれの有無 |
軒裏 | シーリングの割れや欠損の有無 |
内壁や天井 | 雨漏りの後の有無を目視で確認 |
基本的には目視での調査となり、床下に潜るなどの調査はおこなわれません。
また調査時間の目安は約3時間前後で、物件の規模によっては前後する可能性があります。
建物状況調査の依頼費用相場は報告書の作成費用を含めて5〜15万円程度です。業者によって費用設定が異なるため、事前に見積もりを取っておくと良いでしょう。
建物状況調査を実施できる技術者を探したい場合は、既存住宅状況調査技術者の検索が利用できます。
耐震基準適合の検査
耐震基準適合検査も、売却前の検査として一般的な専門検査のひとつです。耐震基準適合の検査とは、建物が法律で定められた新耐震基準を満たしているかの検査です。
耐震基準は1981年6月1日に改正されており、「震度6強程度の地震で倒壊・崩壊しないこと」と定められました。
改正前の基準は「震度5強程度の地震で倒壊・崩壊しないこと」が基準であったため、改正前の耐震基準で建築された建物は原則耐震基準適合検査が必要です。
一級建築士によって耐震検査を実施します。また、耐震基準に適合した建物には、耐震基準適合証明書が発行されます。
費用は依頼する建築士や会社によって異なりますが、検査自体に10万円程度、証明書の発行に5万円程度が相場です。
耐震基準適合証明書を発行することで購入希望者側にもメリットをいくつかあるためご紹介します。
- 不動産取得税の軽減
- 登録免許税の軽減
- 地震保険料の割引
- (1981年12月31日以前に建築された物件の場合)住宅ローン控除の利用
- 購入希望者に対しての安心材料
耐震基準適合証明書の発行により、不動産取得税の軽減措置を受けられます。
本来は固定資産税評価額の4%が不動産取得税として課税されますが、軽減措置を利用すると3%となります。
(不動産取得税に係る特例措置(国土交通省)をもとに作成)
例えば取得した物件の固定資産税評価額が2,000万円の場合、軽減措置がない場合は80万円の取得税がかかりますが、軽減措置が適用された場合は60万円です。
また、耐震基準適合証明書の発行によって登録免許税も軽減されます。登録免許税とは物件の登記を移転する際にかかる費用で、土地は課税標準額の1.5%、住宅には2%が課税されます。しかし、軽減措置を利用すると税率が0.3%に下がるため、登録免許税の節約が可能です。
また、抵当権設定登記の費用も0.4%から0.1%へ軽減されます。
(マイホームを持ったとき(国税庁)をもとに作成)
さらに耐震基準適合証明書を発行しておけば、地震保険料における「耐震診断割引」を適用可能です。割引率は10%となり、地震保険料をかなり抑えられます。
また1981年12月31日以前に建築された物件の場合は、住宅ローン控除を受ける際に耐震基準適合証明書が必要となります。1981年12月31日以前に建築された物件は新耐震基準に適合していない可能性があるため、証明書がなければ住宅ローン控除を受けられません。
以上のように、耐震基準適合証明書の発行によって購入希望者側に多くのメリットがあり、物件売却を円滑に進める効果があります。
また地震が多い日本では購入する物件の耐震性に不安を感じる人が多いため、耐震基準適合証明書を発行しておくに越したことはありません。
専門検査費用と売却価格のバランス
専門検査の費用は5〜15万円程度、耐震基準適合検査は証明書の発行を含めて15万円程度と、さほど大きな額ではありません。
検査を受けることで物件価値を高め、円滑に物件売却を進められます。
ただし、専門検査によって重大な瑕疵が見つかった場合は、修繕するか購入希望者への説明にとどめるかを判断しなければなりません。修繕によって成約価格が上がる場合は修繕した方が得となりますが、修繕費用があまりに高額な場合は、説明に留めた方が手元に多く利益が残る可能性があります。
専門検査を実施したうえで媒介仲介会社と相談し、物件の売却希望額を下げるか、修繕で希望価格に近づけるか判断しましょう。
まとめ
中古住宅を売却する際は、物件価値の正確な把握やトラブル防止のために、専門検査を実施しましょう。
専門検査には費用がかかりますが、物件売却を円滑に進め、購入希望者に安心感を与えるのに非常に有効な検査です。
媒介仲介を依頼する不動産会社と相談しながら、必要な検査を実施し、中古住宅をより売却希望価格に近い金額で売却しましょう。