セットバックとは?中古住宅や土地を購入する時に注意すべきポイント
マイホーム用の土地を探しているときに「要セットバック」という言葉を目にしたことはありませんか?
「要セットバック」と記載された土地は、周囲の土地と比べ安く売りに出されていることも多く、購入を検討したことのある方も多いでしょう。
しかし金額だけを見て、セットバックが必要な土地を購入してしまうと、下記のような事態に陥る可能性があります。
- 希望通りに広さの家を建てられない
- 舗装などの費用が余分に掛かってしまった
本記事では、セットバックの概要と購入時の注意点などについて解説します。
「要セットバック」の土地の購入を検討されている方は、ご一読ください。
セットバックの基礎知識
セットバックの概要について知るために、下記の4つを解説します。
- セットバックって何?
- セットバックの目的
- セットバックの幅はなぜ必要なのか
- セットバックは複数面必要な場合もある
セットバックって何?
「セットバック」とは、建物を新築する場合に道路から後退して、建物を建てることです。
建築基準法は、建物を建てる土地に接道義務を課しています。
接道義務とは、建物を建てる土地は「幅員4メートル以上の道路(地域によっては6メートル以上)の道路に、2メートル以上接していなければならない義務のことです。
2 都市計画区域若しくは準都市計画区域の指定若しくは変更又は第六十八条の九第一項の規定に基づく条例の制定若しくは改正によりこの章の規定が適用されるに至つた際現に建築物が立ち並んでいる幅員四メートル未満の道で、特定行政庁の指定したものは、前項の規定にかかわらず、同項の道路とみなし、その中心線からの水平距離二メートル(同項の規定により指定された区域内においては、三メートル(特定行政庁が周囲の状況により避難及び通行の安全上支障がないと認める場合は、二メートル)。以下この項及び次項において同じ。)の線をその道路の境界線とみなす。ただし、当該道がその中心線からの水平距離二メートル未満で崖地、川、線路敷地その他これらに類するものに沿う場合においては、当該崖地等の道の側の境界線及びその境界線から道の側に水平距離四メートルの線をその道路の境界線とみなす。
引用元:e-Gov法令検索建築基準法 第42条2項
セットバックは、接している道路の幅を4メートル確保するために行います。
建築基準法は1950年(昭和25年)に施行されました。
建築基準法が施行される以前の建物に関しては、幅員が4メートル未満であっても例外として、違法な建築物ではないとされています。
上記の幅4メートル未満の道路を「42条2項道路」「みなし道路」と呼びます。
セットバックの目的
セットバックの目的は下記の3つです。
- 道幅の確保
- 斜線制限の緩和
- 土地の価値確保
道幅を確保する理由は、前項で説明した通り建築基準法に適合する建物を建てるためです。
また、道幅を広げることにより、救急車や消防車などの緊急車両が問題なく通行できるようになります。
斜線制限とは、隣家の通風や採光を確保するために、建物の高さを制限する決まりのことです。
建築物の高さは、道路の境界線と土地の距離によって制限を受けます。
セットバックを行うと、斜線制限が緩和され、より高い家を建てることが可能となります。
現状4メートル未満の道路に接している土地は再建築できないため、再建築可能な土地よりも需要は小さいです。
しかしセットバックを行い、再建築可能な土地に変えることで需要は高くなるため、土地の価値を確保できます。
セットバックの幅はなぜ必要なのか
建築基準法の42条2項は、道路の境界線を「幅員4メートル未満の道路の境界線は水平距離2メートル(地域によっては3メートル)」としています。
具体的なセットバックを行う幅の決め方は、下記3つのパターンがあります。
- 一般的な場合
- 水路がある場合
- 広場私道に面する場合
一般的な場合とは、例えば道路の向こう側が宅地の場合です。
道路の反対側が宅地の場合は、宅地の所有者である両者が、セットバックを行わなければなりません。
例えば接している道路の幅員が3メートルの場合、幅員4メートルを確保するためには、両者が0.5メートルずつのセットバックが必要となります。
一般的な場合の注意点は、向こう側の宅地が「セットバック済み」か「セットバックをしていないか」を確認することです。
仮に向こう側の宅地が「セットバック済み」であれば、道路の中心線が変わるためセットバック距離に違いが出ます。
道路の中心線やセットバック距離に不安があれば、自治体や不動産会社に相談してください。
道路の向こう側が水路の場合は、前述した一般的な場合とは異なりセットバックの条件が変わります。
基本的に水路は動かすことができないため、建物側だけで行わなければなりません。
また原則として、水路は道路に含まれません。
例えば「道路の幅員が3メートル、水路が1メートル」の場合で考えてみましょう。
水路は道路に含まれないため、接道の幅員を4メートル確保するためには、1メートルセットバックを行う必要があります。
ただし、1メートル未満の水路は道路と同じみなすため、水路の幅によってセットバックしの距離が変わることには、注意が必要です。
広場や私道に面する場合は、セットバックを行わなくても建物を建てることが可能な場合があります。
つまり建築基準法上の道路に接していなくても、問題ないということです。
土地の周りに広場や空き地がある場合は、建築基準法上の道路に接していなくても建て替えができます。
ただし、特定行政庁の許可が必要です。
また建築基準法上の道路は、公道か私道かを問いません。
セットバックは複数面必要な場合もある
複数の道路と隣接している場合、セットバックは複数面必要なこともあります。
セットバックが対象となる道路は、正面道路だけではありません。
複数の道路と隣接しており、それぞれの道路の幅員が4メートル確保できていなければ、複数面でセットバックを行わなければなりません。
セットバックで気をつけるポイント
セットバックで気を付けるポイントは下記4つです。
- 中古住宅の建て替えやリノベーションはセットバックの要否を必ず確認
- セットバックは回避できない。ただし例外もある。
- 購入検討中の土地が「セットバック済み」でもちゃんと調べておく
- セットバック後にも駐車はできない
中古住宅の建て替えやリノベーションはセットバックの要否を必ず確認
中古住宅を手頃な値段で購入し、建て替えやリノベーションを検討を行う方は増えています。
しかし、建て替えを行う際はセットバックが必要な土地もあることに注意しましょう。
セットバックを行う場合は、建築基準法により希望する建物よりも小さくしなければならないこともあります。
購入した中古住宅をそのまま使用する場合は問題ありませんが、建て替えなどを検討する場合は、セットバックの要否を必ず確認しましょう。
セットバックは回避できない。ただし例外もある。
原則としてセットバックを回避することはできません。
接道の幅員が4メートルに満たない場合は、セットバックを行わなければ新たに建物は建てられないと、建築基準法で定められているためです。
ただし、国土交通省令で定める基準に適合しており、特定行政庁が交通上・安全上・防火上などで問題ないと認め、建築審査会の同意を得て許可した場合は、セットバックを回避できることもあります。
購入検討中の土地が「セットバック済み」でもちゃんと調べておく
購入後検討中の土地が「セットバック済み」でも、本当にセットバックが完了しているかは調べましょう。
セットバック済み」となっていても、セットバックを行なっていない土地やセットバックが不完全な土地もあります。
特に不動産会社を通さずに行う、不動産の個人間売買の際には、専門家にセットバックが完了しているかをチェックしてもらいましょう。
確認を怠ると、気づかない間に法律違反を行うことになってしまいます。
セットバック後にも駐車はできない
セットバック部分は建築基準法上の道路と見なされるため、駐車スペースとして利用はすることはできません。
原則としてセットバック部分は道路のため、道路以外の使用は認められないと認識しましょう。
セットバックのメリット
利用できる土地が狭くなったり、所有地の利用に制限の出るセットバックですが、下記4つのメリットもあります。
- 車の出し入れがしやすい
- 防災時に安全を確保できる
- 見通しが良くなり防犯対策になる
- 購入価格が安くなることもある
車の出し入れがしやすい
1つ目のメリットは、車の出し入れが行いやすくなることです。
セットバックを行うと道路の幅員が広がるため「何度も切り替えして車庫に入れる」「車を傷つける」ことが少なくなります。
また、人や自転車しか通れなかった道が、車も通れるようになるといったメリットもあります。
災害時に安全を確保できる
2つ目のメリットは、災害時の安全を確保できることです。
幅員が4メートル未満の道路では、緊急車両の通行が難しいため、幅員を広げることにより緊急車両が走行・停車可能となり、早期対応が行われやすくなります。
また建物の距離が広がることにより、地震などで家屋や木などが倒れた場合でも、脱出する経路を作りやすくなることもメリットです。
見通しが良くなり防犯対策になる
セットバックが行われると幅員が広がるため、見通しが良くなります。
日中だけでなく、夜道も見通しが良くなると不審者を見つけやすくなり、防犯対策になります。
購入価格が安くなることもある
セットバックが必要な土地は、下記のようなことをデメリットと捉える方が多いため、土地の値段が下がりやすいです。
- セットバックを行わないと新たに家を建てられない
- 土地が狭くなる
- 道幅が狭く車での通行が行いづらい
- 日当たりが悪い
上記のデメリットが気にならない方であれば、安価に購入できるセットバックが必要な土地は、お買い得といえるでしょう。
セットバックのデメリット
セットバックには前述のメリットもありますが、下記2つのデメリットもあるため、しっかりと理解した上で購入を検討してください。
- セットバック部分の費用もかかる
- セットバック部分は私的に使えない
セットバック部分の費用もかかる
セットバックが必要な土地は、自由に使用できる土地だけでなく、私的に使用できないセットバック部分も含めて購入しなければなりません。
セットバック部分は私的に使えない
前述したように、セットバック部分は私的に使うことができません。
多くの場合、セットバック部分は公共の道路となるためです。
セットバック部分の所有権を持っていたとしても、通行の妨げとなる擁壁や花壇などの設置は認められません。
セットバックの費用について
セットバックの工事にかかる費用は誰が払うのか
セットバックする場合、調査費用や舗装費用などが発生する場合があります。行政が費用を負担してくれることや、自治体によっては補助制度があります。
セットバック部分の非課税にもできる
中古住宅や土地を購入した際に税金が発生してきます。しかしセットバックの場合、非課税になることもありますので、以下2点の税金について知っておきましょう。
固定資産税
セットバック部分は県や市へ提供することで、道路とみなされ固定資産税は非課税となります。
しかし市区町村が不動産などのすべての情報を把握しているわけではないため、セットバック部分の固定資産税は自動的に免除はされません。非課税の適用を受けるには、非課税の申告を行う必要があります。固定資産税は市町村税ですので、市役所や区役所に相談しましょう。
非課税の適用を受けるには、土地の謄本やセットバック部分の面積が分かる地積測量図、その他、役所が指定する書類を用意して申告しましょう。
都市計画税
都市計画税とは、都市計画事業や土地区画事業の費用に充てることを目的にした市町村税のことで、市街化区域内に土地や家屋を持っている人に毎年課される地方税です。(地方税法第702条)
固定資産税と同様にセットバック部分を提供することで、道路とみなされ非課税となります。
非課税の適用に役所が指定する書類を用意して申告が必要となります。
セットバックした土地は行政が買い取る場合もある
セットバック部分の所有権を持っていても利用が制限されているので、所有し続けていてもメリットはほぼありません。
それならば自治体に買い取ってもらいたいという方もいらっしゃいます。しかし、セットバック部分を買い取ってもらえるか、またその処理をどうするかは自治体によって異なります。
自治体によっては、寄付として受け付けて助成金を支給する方法をとる自治体は比較的多くあります。
しかし、中には寄付を受け付けていない自治体もあります。また、助成金が支給されても、土地の価格と比較するとかなり低いケースがほとんどです。
詳しくは管轄の自治体の役所にある建築課へ問い合わせてみてください。
セットバックに関するQ&A
セットバックについて大方のことがわかったかと思います。中古住宅や土地を購入してセットバックをした際には、その箇所が有効活用できないかなど考えてしまうものです。
これまで説明した以外でも細かなお悩みをQ&A形式でご紹介します。
Q1. セットバックした土地が未舗装のままで大丈夫ですか?
A1. セットバックした土地を自治体へ寄付したにも関わらず、その土地が未舗装のまま放置されることがあります。自治体としては、セットバック部分のためだけに舗装工事を行うのは割高となるため、水道工事などと併せて工事を行うことを考えて放置している可能性が高いです。セットバック部分が未舗装の場合は役所へ相談すると、早めに対応してくれる場合もありますので、困っている方は相談してみましょう。
Q2. セットバックした部分が私有地なら駐車場などにしても大丈夫ですか?
A2. セットバックした部分を私有地として花壇や駐車場にしている方もなかにはいらっしゃいます。しかし、そういった利用方法は認められていません。これまでもご紹介してきたように、交通上、安全上、防災上の観点からセットバックが必要とされているため、何も置かず開けた状態にする必要があります。
ですが、隣家がセットバックしていない場合、自分だけが損しているような気分になり駐車場として利用したり花壇を作る方もいらっしゃいます。役所は個別に注意するのは大変なため指導していない場合が多いようですが、良い環境づくりのために自分たちから整備していきましょう。
Q3. セットバックした部分の下に地下室は作れますか?
A3. セットバックした部分を私有地として所有している場合、制限を受けるのは道路の利用なので、地下に地下室を設けていいのか気になる方もいらっしゃるのではないでしょうか? 結論としては、地下建物も後退整備の対象となるので、地下室をつくることは違反になる可能性が高いです。
Q4. セットバックした部分が私道の場合は誰が整備しますか?
A4. 自治体によって異なりますが、セットバックした部分が私道または私有地として所有したままの場合は、自分で工事を手配しなければ未舗装のままになるケースが多いです。自治体によっては工事に対して助成金制度を設けていますので、うまく利用するようにしましょう。
基本的にはセットバック時に工事した方が安くなりますので、セットバックを行う時に確認しましょう。
まとめ
中古住宅や土地を購入する場合に、セットバックの要否を確認する必要性についてご紹介してきました。
購入した後で、イメージしていた利用方法が出来ないとならないように、しっかりセットバックについてもご確認ください。
またセットバックはデメリットだけではなく、使いやすさや価格を抑えるなどのメリットもありますので、セットバックが必要な物件も検討の対象に含めることもよいかと思います。
セットバックにはご紹介した以上に専門的な知識が必要なこともありますので、まずは不動産会社に相談してみましょう。