持続可能な森林経営・管理を目指して 浜松市が「FSC 森林認証」を取得
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天竜川がほぼ中央を流れる浜松市北部の北遠一帯は日本屈指の森林・林業地帯。浜松市の面積の約70%を森林が占め、良質な杉(スギ)、檜(ヒノキ)の生産地となっている。安価な輸入木材によって地域の林業が圧迫され、人工林が荒廃するのを食い止めようと、浜松市では国際的な「FSC(Forest Stewardship Council )森林認証」を取得した。
自然環境保護はもとより、持続可能な森林経営をサポートしようと始まったこの取り組み。具体的な内容を浜松市産業部農林水産政策課主任の藤江俊允さんにうかがった。
天然林の違法伐採を阻み、人工林を適切に管理する
森林は天然林と人工林に分類される。よく「森林破壊」という言葉を耳にするが、これは天然林を違法伐採する悪質な行為を指す。毎年、日本の面積の約3分の1に相当する森林が世界で減少し、これが地球の温暖化、砂漠化の原因の1つとされる中、世界有数の木材輸入国であるわが国では、木材消費量のうち約8割を輸入木材が占めている。
その中には違法伐採されたものや保護すべき森林から伐り出されたものも混ざっているともいわれる。藤江さんは次のように説明する。
「日本は、森林率において北欧やカナダに匹敵するほど森林が豊かな国。本来、国産材で消費をまかなえるのに、安価な輸入木材に依存してしまったことが林業衰退の始まりです。外国から輸入した木材のコストには運賃が含まれ、貨物船が使う石油などの化石燃料の使用が環境に負荷を与えることも忘れてはなりません。
日本で2番目の面積を持つ政令指定都市、浜松では、市の面積の約70%が森林。その多くが人の手によって植林された人工林です。地域の財産である人工林を適切に管理し、持続可能な森林経営・管理を実現するための第一歩が今回のFSC森林認証取得です」
日本独自のSGEC(緑の循環認証会議)を含め、世界各地で50以上の森林認証制度がある中、「FSC森林認証制度」は世界中の森林を対象に、国際的に統一された基準に沿って森林管理の優良度を審査・認証する制度。
ドイツのボンに本部を置く会員制の非営利組織、FSC(Forest Stewardship Council=森林管理協議会)を中心に世界21の第三者機関が10の原則に照らして厳正な審査・認証を行っている。
浜松市では「浜松市森林・林業ビジョン」に基づいて国際的な制度であり、かつ、PR効果の高い同制度の取得を目指し、平成18年度から着々と準備。市内6森林組合等とのグループで平成21年度18,400ha、平成22年度27,866ha、平成23年度36,494haと段階的に認証取得面積を増やしてきた。
この認証面積は市町村別で全国1位、取得者別(県や団体、個人など所有者)にみても全国2位と、浜松市の積極性を表している。
「FM認証」と「COC認証」でFSC認証材の信頼性を高める
森林環境を適切に保全し、地域の社会的な利益にかない、経済的にも持続可能な森林管理を推進する同制度。植林、下草刈り、枝打ち、間伐と数十年にわたって手を入れ続け、人工林全体に日光を行き渡らせる山仕事は想像以上に大変だ。藤江さんは続ける。
「今回の認証取得にあたって、浜松の林業家たちは特別なことはしていません。なぜなら、先代から代々受け継ぎ、実践してきたやり方がFSCの理念そのものだったから。森を守るためには木だけでなく、水質保全や自然の中で暮らす野生動物、植物への配慮も不可欠です。作業員の安全装置や、川の近くでオイルを交換しないなど基本的なマナーを徹底し、厳格な審査をクリアして取得したこのグローバル認証に、私たちは地域の一員として誇りを持ってよいのではないでしょうか」
森林そのものを審査する「FM(Forest Management=森林)認証」に加えて、FSCでは、森林から伐り出された建築木材や紙製品を含む木材製品を対象に「COC(Chain of Custody=流通・加工)認証」を設けている。これはFSCの森林で生産された原材料を使用した上で、木材や紙製品の確実な識別管理を行っていることを認証するもので、最終製品になるまでの間に関わる製造業者やそれらを扱う商社、工務店などが対象となる。
注目すべきは、認証を取得していない業者が1社でも介在すると、その時点でFSCロゴマークの使用が禁じられることだ(小売業は除く)。FSCの森から消費者へ至る全プロセスでFSC認証をリレーすることで信頼性とトレーサビリティを強化するこの仕組み。不透明な部分を排除することで、消費者は確信と安心を抱いてFSC認証の最終製品を選ぶことができる。
木を育てる人、製品にする人、消費する人の相互協力がカギ
天竜の林業家は浜松市の取材で次のように語ったという。「国産材の需要が少なく、伐採を先延ばしにしているのが現状。樹齢60年以上の立派な木を前にすると、これまで丹念に面倒を見てきた成果がわかってうれしい反面、なかなか世の中に出してやれないことを切なく思う」。地球上には、天然林など伐ってはいけない山がある一方で、伐らなければいけない山がある。人工林は、伐る(間伐)ことで適切に管理され、”植える、育てる、伐る、使う”のサイクルを回すことが大切なのだ。
今回、FSC森林認証の取得にあたって、森林組合や林業家、市・県など多くの関係者の協力があった。そしてこのFSC認証制度を広げるためには、市民一人ひとりの力と、多くの”森林の応援団”が必要だという。
「森林の荒廃は森に関わる人たちだけで食い止めることはできません。川下に暮らす私たち一人ひとりが意識を変え、行動を起こすことで実現するのです。浜松市ではFSC森林認証取得によって天竜材を市民に広くPRしていくとともに、環境ブランドの確立や、選択と集中による林業振興への施策展開を推進しています。天竜材の価値を高め、林業の歴史や文化を次世代に受け継ぐことが、森林保全と林業振興につながると考えています」と藤江さん。
木を育てる人、製品にする人が連携してつくるFSC認証製品を、消費者である私たちがきちんとキャッチしなければ、せっかくの制度も機能しない。日本の森を救うのは消費者の意識にかかっているといえるだろう。
素性がわかる優れた木材。暮らしの中にFSC材を!
FSC認証材は既に、私たちの身の回りにたくさんある。建築用資材をはじめ、木のベンチや学童机、椅子、鉛筆、ノートやメモ用紙、湯玉など、製品に付いたFSCロゴマークで確認することができる。
浜松市では公共建築物における地域産FSC材利用の推進と同時に、FSC材の流通促進を核とした地域材の需要拡大を掲げて、FSC材学童机・椅子のモデル的導入、FSC普及啓発用品の作製、天竜区役所での区長室腰板や受水槽、家具へのFSC材利用とPR、FSC材輸出の調査研究などを積極的に進めている。
最大の消費拡大の道は木造住宅への浜松市産FSC材の利用だ。地元の山で生産された木材を使って家を建てることが通常だった時代を思い出し、生産する森林と消費する街が隣接・共存する浜松市の恵まれた環境を活かしたい。
市の取り組みと並行して、FSC認証材を100%使ったモデルハウスも誕生している。三立木材株式会社では浜松市天竜区二俣町阿蔵(同社分譲地内)に「天竜FSC森林認証の家」を建設中だ(4月13日~15日 見学会開催)。
食品を選ぶ時、生産国や製造業者をチェックするのと同様に、木を選ぶ時も生まれ育ちに目配りすることで、もともとポテンシャルの高い天竜材はさらに価値を高めていくはず。
“森林の応援団”の一人として、FSC森林認証取得をきっかけに、浜松の森林・林業の未来が開けていくことを願いたい。
編集協力 静岡情報通信