増税前の分譲住宅市場を探る

10月1日、安倍首相が来年4月から消費税率を8%に引き上げることを正式に表明した。1,000兆円超の借金を抱え、先進国では最悪とされる財政状況の健全化がその目的だが、暮らしに密着した消費税の増税は国民生活に多大な影響を及ぼすことになる。
特に“人生でもっともおおきな買い物”といわれる住宅購入においては、5%と8%の差は決して無視できない。
来年4月以降の引き渡しであっても消費税5%が適用される新築注文住宅の請負契約が9月30日をもって締め切られ、住宅各社ではこれから来年3月にかけて消費税5%適用の分譲住宅（来年3月末までに引き渡し）の販売に力を注ぐ。増税前の駆け込み需要を含めた市場動向について、遠州鉄道株式会社 住宅事業部 住宅企画課 課長の竹下浩史さんと大和ハウス工業株式会社 浜松支店 住宅営業所 営業課の折原一道さんにうかがった。

消費税5%で住宅を購入するためには？

まず、消費税5%が適用されるケースを簡単におさらいしておこう。住宅の引き渡し（最終決済）が2014年3月31日に完了する住宅は消費税5%が適用される。各社によって工期は異なるが、来年3月末のタイムリミットに間に合わせるためには、既に着工しているか、図面が完成していて着工目前でないと厳しいだろう。まして、土地から探すとなると間に合わない。これとは別に、2013年9月30日までに工事請負契約を結んでいる注文住宅は引き渡しが2014年3月31日以降であっても消費税5%が適用される。したがって、請負契約を済ませ、着工は年明けまたは4月以降からというケースも見られる。ただしこの場合、追加契約等の集結が2013年10月以降に発生すると、追加契約分については消費税8%が適用される。いずれにしても、今の時点では5%の注文住宅は困難だ。

しかし、来年3月31日までに引き渡しの分譲（建売）住宅なら、今からでも十分に間に合う。住宅各社では駆け込み需要を見込んで分譲住宅を積極的に手がけており、現在建設中の分譲住宅も今後続々と市場に出てくる。消費税5%のうちにわが家をと考える人は、今すぐ行動を起こしたい。

受注件数が大幅アップ。増税に敏感な心理を反映

最近の動向を聞いてみよう。遠州鉄道の竹下さんは次のように説明する。「注文住宅の受注は8月までは例年とほぼ同じペースでしたが、9月に入ってから通常の倍近いご契約をいただき、従来の上期平均を25%ほど上回りました。
お客様も9月末までが注文住宅のデッドラインであることをよくご存知で、増税が現実味を帯びるにつれ、最終的な判断をされたのだと思います」。

大和ハウス工業でも状況は同じだ。
折原さんは「注文住宅の受注件数は9月が4倍増でした。安倍首相の決定会見や東京五輪招致で消費者マインドががらりと変わり、『9月末までには間に合わなかったけれど、10月〜11月の請負契約で来年3月末までに何とか完成させられないか』というお問い合わせも寄せられます。弊社では11月末までにご契約いただければ5%適用の注文住宅を実現することができますが、一生に一度の大きな買い物ですから、冷静に判断してほしいですね」と語る。

消費税5%は消費者にとって住宅購入の最大のモチベーションであり、今後は分譲住宅に注目が集まることは間違いなさそうだ。実際の建物や住宅設備、仕様、デザインを自分の目で直接確認でき、価格的にも手が届きやすい分譲住宅は潜在ニーズがある。住宅各社では増税を見込んで早期から土地を仕入れ、来年3月までの引き渡しに向けて計画的に建設を進めている。

編集協力 静岡情報通信