浜松市市街化調整区域の運用基準見直し
浜松市は東海地震および三連動地震に伴う津波被害対策の観点から「市街化調整区域における開発許可制度の運用基準」を見直し、平成24年4月1日より新基準の運用を開始した。
対象となる市街化調整区域は、遠州灘からおおむね2km圏内の「暫定津波対策範囲」で、津波避難ビルとして利用可能な建物を建設できるよう、従来の高さ制限などを緩和。地域住民の安全確保や地主の土地利用を促進するものと期待されている。
市の津波避難施設を補完する津波避難ビルの建設を後押し
甚大な被害をもたらした東日本大震災を教訓に、全国の沿岸部では津波への早急な対策が叫ばれている。平成23年末には津波防災地域づくりに関する法律が施行され、国の基本方針が示された。各地域の津波浸水想定についても、静岡県が平成25年夏の発表を目指して準備中だ。
こうした中、浜松市では遠州灘からおおむね2kmの範囲を「暫定津波対策範囲」に設定し、地震発生時には市民が早期に避難できる津波避難ビルの指定や津波避難標識の整備を進めている。浜松市危機管理課によると、現在、津波避難ビルとして利用できる既存建物は二百数十棟あるという。しかし、暫定津波対策範囲のほとんどは広大な平地部に位置し、高層建築物の建設が制限されている市街化調整区域と重なるため、居住人口と照らし合わせても避難場所は十分とはいえないのが現状だ。
そこで浜松市では、現行制度の中で暫定的に実施できる対策として、「市街化調整区域における開発許可制度の運用基準」の見直しに踏み切り、民間活力を利用した津波避難ビルの立地促進を図ることとした。対象となる暫定津波対策範囲は安政東海地震の推定津波浸水域+2kmの範囲で、東西は天竜川から浜名湖まで広域に及ぶ。
高さ10m以下の制限を緩和。構造の堅牢性、安全性も盛り込む
今回の基準は来年夏を目途に静岡県知事が津波浸水想定を設定し、浜松市が新基準を策定するまでの暫定的な運用であり、津波対策範囲も変更される可能性がある。では、どのような基準が追加されたか、順番に見ていこう。
まず、【申請者・事業の基準】は、都市計画法第29条第1項第2号乃至第9号、第34条各号、第43条本文、同条第1項第1号及び同条第1項第4号(以下 「立地条項」という)による立地申請者。【立地の基準】は、暫定津波対策範囲内で、浜松市危機管理部局より「津波避難ビル」の指定が得られること(危機管 理部局から副申が得られるもの)。
また、避難者集積の基準として、建築予定地を中心とする半径500mで津波発生方向からの半円内に相当数の避難者の集積 が認められる土地であることを盛り込んでいる。
このほか、前面道路幅員と敷地面積は立地条項の条件に準拠する。一方、【建築物の基準】としては、万一の場合に津波避難ビルとして機能することを前提に以下の基準が定められている。
- 用途/立地条項の用途
- 構造/主要構造部が鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造等堅牢なもの
- 高さ/建築基準法による建築物の高さ制限の範囲内であること→10m以下の制限を緩和
- 屋上は陸屋根とし、規模相応の避難スペースが確保されること
- 屋上からの転落防止対策を講じること
- 地上から屋上まで直接移動できる階段を屋外に設置すること
- 24時間避難可能であること
- 階段入口等に鍵を設ける場合には、地震動時の開錠措置を講ずること
賃貸アパートやマンションなど土地活用と防災に新たな活路
このほかにも、地盤調査により敷地の安全が確認できること(安全対策が講じられる場合はこの限りではない)や、開発審査会の議決後速やかに許可申請が行われ、相当の期間内に工事が完了する見込みがあること、静岡県が策定している東海地震対策「避難計画策定指針」に準拠するものであることなどが定められている。
今回の規制緩和は津波被害を想定した防災の観点から始まったものだが、市街化調整区域の制限のためにこれまで土地活用に手をこまねいていた地主にとっては、津波避難ビルの役割を担った賃貸アパート・マンションを建設するという新たな活路が開ける。また、民間ビル事業者が沿岸部に中高層建築物を建設することも可能となり、地域住民の安全確保に貢献するこうした建物の存在意義は大きい。
浜松市では今後、国や静岡県の方針を見据えながら、自然災害に強い都市整備に力を注いでいく構えだ。市街化調整区域における開発許可制度の運用基準見直しについての問い合わせは、浜松市都市整備部土地政策課まで。
【お問い合わせ】
浜松市都市整備部土地政策課 tel.053-457-2373
編集協力 静岡情報通信