不動産売却するなら理解しておきたい債権・債務について
不動産を売却する前に知っておきたい債権・債務
不動産の売却をするときには、どうしても「債権」「債務」とは何かを知っておく必要があります。今回は不動産売却の場面でよく登場する債権・債務をご紹介します。
債権・債務とは
債権とは、ある人に金銭や役務を請求できる権利です。
債務とは、ある人に金銭や役務を与える義務のことです。
これらの権利・義務は契約などの法律行為によって発生します。
債権の例としては、商売の掛取引による売掛債権や、貸したお金、投資した株式などがあります。
債務の例として知られているのは、借金でしょう。
不動産売却で登場する債権・債務
不動産売買で登場する債権・債務の代表例として、不動産売買契約によって以下が発生します。
- 不動産の引き渡し債権/不動産の引き渡し債務
- 不動産の代金支払い債権/不動産の代金支払い債務
買主様は不動産を「引き渡してください」と請求できる権利を持ち、代金を支払う義務を負います。
売主様は不動産を引き渡す義務を負い、代金を「支払ってください」と請求する権利を持ちます。
民法改正
2020年4月1日、改正民法が施行されました。民法の中でも債権に関する部分、特に契約関係(売買・賃貸借)を中心に行われた改正です。この改正は不動産の取引に影響を与えますので、注意が必要です。
不動産売却で債権・債務が問題になる例
例えば、中古住宅の売買契約が締結された後、引き渡しが行われる前に、その中古住宅がもらい火(類焼)によって全焼してしまったとします。売主様には故意過失がないのですが、不動産の引き渡し債務を約束通りに履行できなくなりました(履行不能)。
このようなケースでは、中古住宅がなくなってしまった損害を売主様と買主様のどちらが負担するのかが問題になります。一般に「危険負担」の問題と呼ばれています。
民法改正前の考え方
改正前の民法では、先ほどの危険負担の例では、買主様の代金支払い債務は消滅しないという考え方が取られていました。
しかし、契約書に記名・押印しただけで引き渡しを受けていない建物が燃えてしまったのに、その損失を買主様が負担するというのは、あまりにも気の毒です。
そこで、実際の不動産売買では契約書に特約をつけることが一般的でした。どのような特約かというと、買主様負担となる民法の原則を修正し、売買の目的物である不動産が引き渡し前に滅失・毀損(きそん)したときは、売主様は代金を請求できないとしていました。
民法改正後の考え方
民法改正により、先程の例で買主様が負担する原則は廃止されました。その代わり、建物の焼失による損失は売主様が負担することになりました。
もう少し具体的に説明すると、不動産が引き渡し前に滅失・毀損(きそん)しても買主様の代金支払い債務が当然に消滅するわけではありません。買主様は支払いを拒絶するか、契約を解除することができるようになりました。契約を解除した場合は支払いの義務も消えることになります。
民法 第536条
1. 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
この条文でいう「債権者」は、売買目的物の引き渡し債権を持っている人のことです。先ほどの例に当てはめれば、中古住宅の引き渡し債権を持っている「債権者」は、「反対給付」(中古住宅の代金支払い債務)を約束通り行うことを拒絶できるということです。
不動産売却で気をつけたい債権の時効
債権には時効があります。期間が到来すると債権が時効によって消滅し、権利行使ができなくなってしまうのです。
改正前の民法では債権の消滅時効の期間を原則として「権利を行使できる時から10年」としていました。
改正民法では、「権利を行使できる時から10年」を維持しつつ、「権利を行使できることを知った時から5年間」という時効期間も新設されました。
この2つの期間のうち、早く到来する期間によって債権が時効で消滅することになりました。
不動産売買に関係する債権・債務に影響することですから、注意が必要です。
まとめ
不動産を売却するときには、売主様が持つ債権・債務を理解しておくことが重要です。債権・債務の内容や消滅時効の期間などによって、売主様が取るべき行動が変わってきます。
契約内容や自分の権利・義務について少しでも不明な点があるなら、不動産会社に確認したり、場合によっては法律の専門家のアドバイスを受けたりすることで、不動産売却を慎重に進めたいものです。